満月の夜に咲く、静かな誘惑
夜が深まると、感覚が少しずつ研ぎ澄まされていきます。
静けさに包まれた空気のなかで、ふと漂ってくる香り。
それは、昼の世界では決して目を覚まさない、夜の花の香りです。
チュベローズ
日本では「月下香」とも呼ばれるこの花は、白く繊細な姿に似合わぬほど、濃密で甘美な香りを宿しています。
その名のとおり、月の下でこそ真価を放ち、魔性と静寂をひそやかにまとって咲き誇る花。
その香りを知る人なら、ただの花以上の意味をこの名に見出しているかもしれません。
古来、香りと満月は、祈りや儀式の中で深く結びついてきました。
東洋では、月を愛でる風習の中で香が焚かれ、言葉にならない感情が静かに立ち上っていく時間が尊ばれてきました。
中東やインドの神聖な夜には、乳香や花の香油が神に捧げられ、西洋では満月に香草を焚いて願いを託す風習が今なお残ります。
香りは、目には映らずとも、胸の奥に触れる小さな祈りのかたち。
そして満月は、眠っていた感情がもっとも目を覚ましやすい“開かれた夜”なのでしょう。
香りは、ときに空気の質感すら変えてしまうのかもしれません。
とくに満月の夜、その力はより濃く、より深く私たちに作用します。
湿度を帯びた夜気のなかで香りはゆっくりと広がり、私たちの心の奥にしまい込んでいた記憶や感情をそっと呼び起こします。
それは懐かしさでもあり、戸惑いでもあり、自分でも知らなかった感覚との再会でもあるのです。
チュベローズの香りは、まさにその導き手となるのではないでしょうか。
清らかさと官能、静けさと衝動——
その両極を兼ね備えた香りが、満ちた月の光と重なったとき、香りはただの印象ではなく、感情のかたちを纏った“記憶”へと変わっていくのです。
そして、もうすぐまた、夜空に満月がのぼります。
2025年6月11日は、射手座の満月。
この夜、世界はほんの少しだけ、静けさの方へ傾いていきます。
チュベローズの香りを纏うならば、その夜かもしれません。
それは装いではなく、ひそやかな祈り。
満ちた月とともに、眠っていた感情の扉がそっと開く夜になることでしょう。
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