香りのサスペンス劇場 - 香水のハートを盗んだのは、誰? -
夏はまだ続いている。
けれど、日が暮れる時間や夜風の中に、ほんの少しだけ、次の季節の気配を感じる頃。
賑やかな夏の時間から離れ、冷たい飲み物を片手に、ひとつの事件へ迷い込む。
香りを嗅ぎ、物語を読み、謎を解く。
「MURDER MYSTERY BOX」は、夏の盛りを越えた夜に楽しみたい、D.S. & DURGAによる香りのミステリーです。
失われた、香水の心臓部
舞台は、ブルックリンにある調香師デイビッド・セス・モルツのオフィス。
デイビッドは長い年月をかけ、目がくらむほど美しく、輝くように透明な香水をつくり上げました。
その複雑な処方を書き留めたのは、使い込まれたアンティークの革張りのノート。最後の撹拌を終え、完成した香りを前に腰を下ろした、その瞬間——。
デイビッドは何者かに襲われ、意識を失います。
数時間後、激しい頭痛とともに目を覚ますと、ノートから香水の「ハート」にあたる処方だけが、乱暴に引き裂かれていました。
香りの中心をつくり、その個性を決定づけるハートノート。
それを失った香水は、心臓を奪われたも同然です。
机の上には、珍しいインセンスと花の粉。
香水に使われた素材なのか。
それとも、犯人が残した手がかりなのか。
デイビッドは、建築家でデザイナーのカヴィとともに、失われたハートを探し始めます。
香りをたどる、夜の逃避行
手がかりを追って二人が向かったのは、ロンドンにある香りの博物館。
そこで見つけたのは、不思議なアンバーの樹脂でした。
しかし突然、館内に警報が鳴り響き、照明が消えます。暗闇の中で聞こえてきたのは、デイビッドの名を呼ぶ謎の声。
そして空気には、独特なバラの香りが漂っていました。
二人はその香りを手がかりに、やがてバルティック・クラブで開かれる秘密めいた集まりへとたどり着きます。
会場にいたのは、濃い紫色の化粧をまとったマダム・カート。不気味な警備員を従えたプリンス・アンバー——別名、フランシス・インセンス。そして、見慣れないアクセントで話す背の高いウェイター。
彼に勧められたシャンパンからは、パチョリのような奇妙な香りがしました。
グラスを口にした二人の意識は、次第に遠のいていきます。
再び目を覚ましたのは、黒いタクシーの後部座席。足元には、一枚のメモが残されていました。
「ハートを探すのをやめろ」
ハートのない香水
ホテルへ戻ったカヴィは、デイビッドに語りかけます。
「もう、ハートは必要ないのかもしれない。ハートのない香水を、そのまま発表したら?」
デイビッドは答えます。
「どんな香りなのか、自分でも分からない。
でも、分からないけれど……いい香りだ」
こうして生まれたのが、「I DON’T KNOW WHAT」。
従来の香水のようなハートノートを持たず、肌の上で輝きと奥行きを生み出す、透明でモダンな香りです。
それが何なのかは分からない。
けれど、なぜか惹かれる。
その言葉にできない魅力を持つ「I DON’T KNOW WHAT」は、D.S. & DURGAを代表する香りのひとつとなりました。
夏の終わりを待ちながら
失われたハートは、どこにあるのか。
そして、盗んだのは誰なのか。
アンバー、インセンス、ローズ、パチョリ。
物語に残された香りは、すべて事件を解くための手がかりです。
登場人物をイメージした香りを試し、重ねながら、自分自身で物語の真相を推理する。
一人で静かに事件へ入り込むのも、誰かと香りを確かめながら犯人を探すのも、このボックスの楽しみ方です。
一人の犯行なのか。
複数の人物による共犯なのか。
それとも、すべての香りを重ねた先に、真実が隠されているのか。
物語の結末は、香りを手にした人の想像に委ねられています。
まだ残る夏の熱と、少しずつ近づく秋の気配。
季節の境目を待つ夜に、香りから物語を読み解いていく。
夏の終わりを待ちながら楽しむ、少し知的で、少し奇妙な時間。
この夏は、香りのサスペンスを夜の嗜みに。

D.S.&DURGA
Murder Mystery Box Set
10ml×6点